第四群 曇 天

夜には、すっかり雨も上がり、濡れた舗道が乾きかけている。

「おいしかったね! あのベシャメルソース最高」
「よかったわ、喜んでもらえて」

麻衣子は上機嫌で羊子と夜道を歩いていた。六本木のフレンチでディナーを堪能した麻衣子は、ブランド物の紙袋を手に提げて、アスファルトの舗道を新品のエナメル靴を鳴らしながら、羊子と手を繋いで弾んでいる。

「寒いわね。さっさと地下道に潜りましょうか?」
「ううん、もうちょっと見たいな。イルミネーション」
「それもそうね」

羊子は微笑んで、麻衣子の手を握り返した。

「青い光が綺麗だね。白と銀と、青」
「まるで宝石箱ね」
「うん!」

彩られた道を歩く。

「あ、コレ見て。トナカイがソリに乗って、サンタが牽いてる。形勢逆転! 面白ーい」
「本当ね」

しばらく続いた、その光の花束が一段落し、静かなビル群に入った頃、不意に羊子は言った。

「……そっか」
「え?」
「麻衣子ちゃん、ごめん」
「なんで謝るのさ」
「上手く捲けなかった」
「捲く?」

麻衣子が見上げると、羊子の表情は先ほどまでと打って変わって硬かった。

「え、え、何、何?」

戸惑う麻衣子を、なるべく脅えさせないように、

「大丈夫よ。ディナーに誘った責任はちゃんと取るから」

そう言って、そっと麻衣子の肩に手を置いて、

「……つけられてる」
「えっ」
「大丈夫だから」
「…………」

羊子はキッと後ろを振り返った。その鋭い視線の先には、雑踏に紛れてこちらを凝視する、浩之がいた。

第五群 水 面 へつづく