「痛みを知った、だと。お前がか」
「うん」
浩之は真顔で、指先の赤みを見つめている。麻衣子に触れた部分だ。
「痛いって、あまりいい感覚じゃないな。怖いよ」
「余計なものを……。笑顔を奪うんじゃなかったのか?」
俊一は浩之の手を取って、
「傷なら、すぐに治るだろう。心配するな」
そう言ってため息をついた。
「ため息が多いね」
「誰の所為だと思ってる」
「さぁ」
「お前な……。まぁいい。笑顔を今度こそ手に入れろ。誰のでもいい」
「いや、あの子がいい」
「何?」
浩之は、頑なだ。
「あの子のがいいな……」
「どうしてだ?」
「なんか、懐かしい感じがするから」
「?」
この時はまだ、俊一には浩之の言っている意味がわかる由はなかった。