第六群 奇 跡

見に行かなければ。見届けなければ。それが、自分にできる、自分に許された唯一の贖いの様な気がした。

「どっちだっけ……」

美しき恋人を想いながら、心を閉ざしたまま逝ってしまった、征二の最期のメッセージ。

「地球が、泣いてしまう。助けてください……!」

――――ごめんね。何もできなくて、本当に、ごめんね。謝る以外にもう、何もできないんだ。

嘘つきだと、罵られてもしょうがない。何が医師だ。何が、人を助ける職業だ。誰一人として僕は、してあげられることがない。その辺の偽善者の方がまだマシだ……――――

どれくらい走っただろう。何度も行き交う車にクラクションを鳴らされた。何度もアスファルトに躓きそうになった。

やがて、暗く速い流れが見えた。びしょぬれの真水は、息を上げながら、多少よろついて、コンクリートでできた橋に体をもたれさせた。

「ここが、面影橋……」

真水はこみ上げる想いを飲みこんで、しばらく川を見ていた。

ゆく川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。そう言ったのは鴨長明だったか。

時と一緒だ。流れるばかりで、しかも決して戻らない。

重なるのは罪ばかりだ……誰が償うのかもわからない、行き場のない悲劇だけ。

けれど。工藤征二が遺した言葉には、意味があると、真水は信じている。

面影橋から淀んだ川を見ながら、真水は唇を噛み締めた。