Green sleeves

紅葉が燃えるような美しさに包まれる景色を窓から見た。しかし彼はその赤を「葉っぱの色素が死んだ物質の沈殿の結果」としか認識せずに、薄笑いをしながら鼻歌を歌う。それは確か、グリーンスリーブスという古い曲だ。

私はその音色にギクリとして、ティースプーンをテーブルに落としてしまう。

カラン、という乾いたその音は、むかし拾った祖母の骨のこすれる音によく似ていた。

(ただ許してほしかったなんて、とんだ思い上がりだね。許してもらえると、手放してもらえると、執着の捨て場になってくれると、なぜ盲信できたのか。それは君が幸せだからに違いない。)

そうなのです。私は彼を必死に愛そうと思います。愛とやらが本当にこの世界にあるのなら。あるのなら、早く、見せてくれよ!

真っ逆さまの紅葉たちが一斉に嘲りだして彼を否定し始める。それに抗うように、あるいは諦めたように、彼は乾いた音色で口笛を吹く。

やはりそれはグリーンスリーブスなのだ。

半音ずつ上下するその不安定なメロディーが彼を無碍に高揚させる。口笛を吹きながら、ぽとぽとぽとぽとと部屋を歩き回るその様は、まるで道化が失くした赤い鼻を探しているようで、ねぇ、それ笑ってもいいですか。

泣き疲れたら眠りなさい。笑い疲れたら眠りなさい。眠りはすべての終わりを包み込むから。

そんなことを教えてくれた優しい人はもうどこにもいない。

私は飲みかけのダージリンに顔を映した。確かになんとも間抜けた道化の泣き顔を視認した。

(さようなら、僕の思い出たちよ! 安心して永遠に眠るがいい。振り返るだけならもうたくさんだ。)

頭の中がもう、すっかり燃えて色づいて次々と果てていくのです、今のこの瞬間も。それを「美しい」「美しい」なんて、そんなの嫌。嘘って言って。