Case12.再開

葉山と香織は、はたからみればカップルのように見えるかもしれない。香織がリードして、傘を並べて夜の散歩を楽しんでいるような。しかし、今から彼らが行おうとしていることは、およそデートからは程遠い。

人目につかない場所を選ぶ必要があった。香織が提起して葉山が承諾したのは、街はずれにある『南なかよし公園』だった。徐々に雨足は弱まり、公園に着く頃にはやんでいた。

街灯に照らされたベンチに、人影があった。傘を持っておらず、乱れた髪が濡れそぼっている。うつむいたまま、ほとんど身動きしない。葉山と香織が近づいても、その女性は気づいていない様子だった。

「どうしました」

葉山が声をかけると、女性はゆっくり顔を上げた。葉山はハッとした。

「るいさん……?」

るいは葉山をつぶらな瞳で見た。それはまるで、夜空に煌めく星のようであった。

「お姉ちゃん!」

そこへ、はるかと浩輔が駆けつけてきた。はるかは肩で息をしている。呼びかけられて振り向いたるいは、浩輔の姿を目にすると、目を大きく見開いた。

「浩輔……」

るいの言葉を聞き、表情を見た浩輔は愕然とした。今目の前にいるのは、古城るいではない。

「浩輔でしょう」

彼女は緩慢な動きでベンチから立ち上がると、一歩一歩を踏み締めるようにして浩輔に近づいた。浩輔はひと言、「きみなのか……?」と問いかけるのが精一杯だった。

一方、はるかが突然現れて、心穏やかでないのが葉山である。

「どうして、ここに」
「姉を探しにきました」

空は雨雲が去って、半月が煌々と姿を現した。見上げるまでもなく、星々の輝きが、その場にいるすべての者の視界に入ってきた。風はなぎ、静謐に冷えた空気が漂っている。

しばしの沈黙を破ったのは香織だった。

「るいさん、風邪ひいちゃうよ。病院に戻らなきゃ」
「いえ」

香織の言葉を拒否したのは、はるかだった。

「きっと、姉は……この人は、星を見たいんだと思うんです」
「『この人』?」

奇跡は必然のうち。にわかには信じがたいことではあったが、確かにそれは「既に起こっている」。るいと呼ばれる女性は、ためらうことなく浩輔の胸に飛び込んだ。

「浩輔、やっと逢えた。ようやく私、思い出したの」

浩輔は、そんな彼女を抱きしめ返すことしかできなかった。

「きみなんだね」
「ええ。私よ」

はるかはその光景に、胸を引き裂かれる気持ちだった。

「さあ、私に名前をつけて」
「もうずっと前から決めてたんだ」
「ありがとう」

それは、ずっと前から寄り添ってきた二人のようで、香織も言葉を失った。はるかは、かすかに肩を震わせていたが、泣くことはしなかった。

「名前をつけてくれたら、私、浩輔だけの星としてずっと見守ることができる」
「でも、名前なんてなくたって、こうして一緒にいられるなら」
「それはできない。いつまでも人は、夢を見続けることはできないから」

浩輔の腕の中で、女性は微笑んだ。

「さあ、名前を」
「……うん……」

浩輔が躊躇していると、冷たく鋭い視線を背中に感じた。はるかが真っ青な顔で後ずさりしている。浩輔がハッとして振り返ると、葉山がこちらに銃口を向けていた。

「麗しい再会のところ悪いが、俺も我慢の限界みたいだ。古城はるか。きみの『美しい姿』を俺に見せてくれ」
「葉山さん」

香織が葉山を制止しようと、はるかの前に立ち塞がる。

「順番は守ってください。はるかちゃんに手を出すのは、私を倒してからです」

そう言って、いつも使っている通勤カバンから香織は拳銃を取り出して、葉山に向けて構えた。