今日の短歌 雨ですね

1 髪切ったわけをきちんと質してよきみのせいだと糾したいから 2 「雨ですね」それきり口を開かずにふたりぼっちで遠雷を聞く 3 リビングのカレンダーもまだ五月だしまた連休があったっていい 4 ほっといてくれといわれてほっ…

今日の短歌 獣と同じ色

1 バス停で偶然会ったふりをするためまわり道した雨の夕方 2 いい人とどうでもいい人の狭間で白いポピーが小夜風に咲む 3 もう無味なチューインガムと過ごす夜 吐くタイミング掴めずにいる 4 新しいピアスをなくしどうやって…

水草

加速度を上げたレッテルが 水槽の中ではち切れるとき 金魚どもの骨々は報われる 空——まだ数えるには足りない幻滅と 明滅するスマートフォンの広告たちが ゆらゆら行く手を阻むためだけに在り 私の残滓の根本になってしまうとして…

今日の短歌 でも春は

1 日々だった紡いだ息もあやまちも月がきれいと伝えるための 2 桜舞う夜に思い知るああ既にきみはきちんとぼくの傷あと 3 耳たぶに花びらの降るふれられてクラクションさえ無視し続けた 4 ベランダに花びらはらりきみからの便…

春の五句

芽吹きこそ風が指揮するシンフォニア 口笛の卒業ソング掠れる夜 初蛙目覚めてもまだとぼけ顔 花冷えに歩幅広げて進むみち 言い当てる言葉もなくて猫の恋

今日の短歌 ああ、呼ばれた

1 火曜日のエンドロールにきみの名が焼きつけられて今日は満月 2 満月を言い訳にして仲直りきれいだねって月のほうかよ 3 薬局で分けてもらったサムシング毒か薬か知らないで飲む 4 コンセントにピンセット挿し感電し呻いた過…

今日の短歌 吊り橋

1 めでたし、のつづきをみんな生きている罪の意識にリボンをかけて 2 「生きている」わざわざ口に出すようになって久しい春一番よ 3 叫べたら壊れることもなかったと軋む吊り橋の上できみは 4 枯れていく花束見つめ幸せを過去…

初春の三句

陽光に竹がしなって雪どけよ 春の陽にまどろむ猫の大あくび 沈黙が雪どけせかす初デート

短歌 二月

1 傷つけた人の顔にはモザイクをかけやり過ごす二月の短さ 2 泣きたいと泣くの間の距離感を埋める二月の生ぬるい風 3 花ですか、それとも可能性ですかきみが二月に失ったのは 4 ただ画面のなかに映る海があり見つめるだけのぼ…

リボン

食べる、そのときに 口が開くと歯が見える いのちを噛み砕くための しゃべる、そのときに 口を開くと言葉が出る 誰かを傷つけるための 黙る、そのときに 口を開けると馬鹿みたい 本当は馬鹿なんだけれど 食べる、いのちを繋ぐた…