第八章 ご予定は、殺人ですか?
「クリスマスイブのご予定は、殺人ですか?」 単刀直入な若宮の質問に、葉山は持っていたマグカップを落としそうになった。 「な、何を言い出すのかと思えば、人聞きの悪いこと言わないでよ」 「それとも、私とデートしませんか」 若…
「クリスマスイブのご予定は、殺人ですか?」 単刀直入な若宮の質問に、葉山は持っていたマグカップを落としそうになった。 「な、何を言い出すのかと思えば、人聞きの悪いこと言わないでよ」 「それとも、私とデートしませんか」 若…
デートの待ち合わせと呼ぶには、微妙な場所を選んだものだ。JR青梅線東中神駅。きらびやかとはとても言えないし、どちらかというと閑静な住宅街である。 中央線で立川まで行って、乗り換えてさらに西へ向かったので、移動だけでもひど…
若宮香織のマイペース並びにハイペースぶりは折り紙付きだ。葉山が顔を真っ赤にしているのは果たして酒のせいだけだろうか。 その目の前では竹中と美乃梨が、見ていないふりを貫いて談笑している。白々しい。 葉山は2回、大きく深呼吸…
葉山はおそらく、あのUSBメモリのパスワード解除に成功したのだろう。あの日以来、捜査会議の途中で上の空になることも、もちろん途中で抜け出してトイレにこもることもない。むしろ以前よりはつらつと仕事にまい進しているように見え…
USBメモリを自分のノートパソコンに挿入する瞬間、微かな罪悪感を覚えた。しかし、それ以上の高揚感が僕の手を止めさせなかった。 保護ファイル パスワードを入力してください とだけ表示されたダイアログボックスに、僕は最初にk…
トイレの一件以降、葉山はどこか覇気がないように感じられた。なんとなく頬杖をついたり、せっかくお茶を淹れても飲まずに放置したり、そんな時間が増えたのだ。 「香織、ちょっといい?」 給湯室で茶葉を捨てていた私に、美乃梨が話し…
美乃梨はなんというか、確信犯だ。いつもボディーラインがはっきりするようなスーツ姿で、特に胸元なんかはボタンが可哀想なくらいにボリューム感があるし、きっと肩こりが大変なんじゃないかと余計な心配までしてしまう。 さながら痴漢…
この頃大流行している映画があるんです、と唐突に若宮に教えられた。大きなヤマが一段落したので有給休暇を取得しようと、申請用紙を提出したときのことである。 「『花束みたいに恋をした』っていうんですけどね」 「はあ」 「一緒に…
翌朝、美奈子が目を覚ますとリビングの方から香ばしい匂いがした。これは間違いなく淹れたてのマンデリンだ。 寝ぼけ眼をこすると、まぶたが腫れぼったくなっていた。昨日、さんざん泣いたせいだろう。 「美奈子、おはよう」 リビング…
(一) デイケアで木内がアコースティックギターを披露し、参加者から気持ちばかりの拍手をもらっていたところへ、電話の子機を携えた岸井が神妙な面持ちでデイケアルームに入ってきた。 「どうしたの?」 「皐月ちゃんから、あの子の…