トマト

怒りの正当化事由よりも

大切なものがあるはずで

けれどそれらしい論説に

いとも容易く踊らされる

耳障りのいい言葉たちは

いつも私を騙すけれども

過ちを過ちと認めるのは

とてもしなやかなことと

言い聞かせているけれど

萌ゆる緑を眺めていた

風にそよそよ揺れては

葉っぱの一枚いちまい

ざあざあ泣いているか

あるいは叱っているか

ほんとうのことは瞳に

映ってくれないことを

諫めてくれているのか

テレビに砂嵐を起こし放置しながら

上手に生きられなくてごめんなさい

そう泣き叫んだら父母は悲しそうに

お前は可哀想だと決めつけてくれた

ピアノ線を首元にあてがってくれた

古い記憶に脅迫されそうになる夜を

素数だけをなぞってどうにか過ごし

情けなさを積み上げて宝ものにした

もしもなんでも切れるナイフを

神様が安く提供してくれるなら

分割払いでもいいから入手して

この安っぽい認識と嘘の時報と

ピアノ線と恥ずかしい思い出と

検索履歴と極論をぶった斬って

コトコトと煮込んでしまいたい

(ここでトマト缶を使います)

優しかった人たちの

それぞれの物語には

鋭利な心配りがある

そんな当たり前まで

蔑ろにしてしまった

なんてことをしたの

なんてことをしたの

この怒りも私の一部です

しかし私は怒りではない

どこかに扉があるとして

蹴りあげてしまうのなら

それは壁になるでしょう

差し出された手を払えば

だらしない武器となって

自分自身を襲うでしょう

目を閉じてまぶたの裏に現れる

その人はどんな風に笑ってるか

それとも憐憫を向けてくるのか

可哀想のラベリングに勤しんで

怒りを撒き散らして喚いてるか

いずれにしても関係のないこと

風は吹いているだけ

私は頬でそれを受け

涙を両目に湛えつつ

どこかで喜びを識り

また少し優しくなる

また少し寂しくなる

与えられた番号が夢を見る

符合した数字が滲んでいく

私を示す規則は存在をやめ

自由を恐れる心ばかりまた

ガタガタ揺れては退行する

トマト煮をいただきました

煮込まれたもののすべてを

分析するようなことはせず

黙っていただきましょうね

賢いとは多分そういうこと

怒りを下支えする弱さこそ

咽喉に追いやってしまえよ

飲み込んでしまえたのなら

いい加減楽になれるはずさ

トマトトマトトマトトマト

さてなにについて怯えよう

私だけが取り残された地に

それでも添える歌があって

怒りまで光に気づいたなら

前後左右のどこに向かえど

間違いなどはどこにもない

正しさなどもどこにもない

トマトトマトトマトトマト

すべてはただの点だ

おしゃべりな人間を

新緑たちが見下げる

季節は変わったのに

まだ人間は口を開け

言の葉を散らしては

本当の春を知らない