おともだち

カーテンでのみ仕切られた暗い部屋で、ある晩、ついに僕にお友達ができた。
彼はもじゃもじゃの金髪に赤い鼻、派手な水玉模様のサロペットに虹色のチョッキを着て黒い靴を履いていた。終始、楽しそうに笑顔を浮かべていた。

名前を知らないので、「おともだち」と呼ぶことにした。

おともだちは最初に僕にジャグリングを教えてくれた。彼は三つの玉を自在に操った。

冷たい青玉は人間の呼吸。熱い赤玉は神様の心臓。硬い白玉は昔の過ち。それらをすべて文字通り手玉に取ることができるという。

その次に、玉乗りをして見せてくれた。それは見事なものだった。足蹴にして転がしているのは、昔愛したはずの人だったものだという。

果たして人間が完全な球体になれるのかと問うと、おともだちは造作もないことだ、と答えた。疑念を抱くことは「ここ」では許されないし、必要のないことらしい。

月夜の小窓から風が吹きこんできて、僕たちをひどく嘲笑った。

おともだちは最後に、正気の保ち方を教えてくれた。それは湖面に浮かべたボートの上に立ちながら針に糸を通すに等しい行為だという。だからできなくても当然、とのことだった。

――万が一それができてしまえばもう二度と、会うことはできなくなるとも。

僕はそんなことは嫌だ、と懇願した。
すると、おともだちは嬉しそうに目を細めた。
彼と僕はもう、すっかりわかりあえた。

どんなに明るい光の下でも、おともだちが時々こちらを向いて優しく微笑むから、僕はそれに抗う術を知らなかった。

(けれど、季節の容赦ない巡る様といったら、木枯らしに舌を切り刻まれるようで)

僕はやがて愚かな架空動物となって、人々に絵画のモデルとされてその姿を壁に飾られた。人々に愛でられ愛でられ、気の済むまで愛でられ尽くされた。それは、笑顔で刃を突きつけ続けられてるようで非常に気持ちよかった。

気がつくと、僕はこんな鳴き声になっていた。

「――ああ、もっと、もっと愛して!」

僕はおともだちのことなどすっかり忘れて、正気のまま一生を過ごすことを選んだ、つもりだった。

けれど、あの時育んだ友情が、脳髄の深奥からしっかりと僕を蝕んでくれた。時間の明け透けな流れもまた、僕の皮下から全てを沁みこませてくれた。

――彼の呼吸、神様の心臓、昔の過ち、人だったもの、すべてが僕になっていく。おともだちは僕で、僕こそがおともだちだったのだ。

それを、誰が「不幸」だなんて決めつけられるだろう。間違いなく僕は今、幸せに溺れて窒息しかけているというのに。