アルバトロス

すべての痛みが
癒されるためにあればいいな
すべての悲しみが
許されるためにあればいいな
すべての傷という傷が
優しくなれるためにあればいいな
裂かれた皮膚は
かさぶたを経て強く生まれかわるね

神様もあの世も知らないけれど
きっとそれでも構わないさ
他でもない今この瞬間を
自分自身に誇れるきみが好きだ

気が向いたら口笛を吹いて
きみの名前を薫風に乗せよう
休みの日にはノートに向かって
きみの言葉を書き留めておこう

伝説になれなくたって
思い出にはなれるさ
遠い日のいつかが
今ここにあるでしょう

きみはただ
限りある命を誇り高く燃やしてくれ
私はもう
過去を言い訳に足踏みをしない
きみの痛みの欠片に触れて
白いカーテンがふわりと膨らんだ午後
私たちもうそろそろ
踏み出せる気がするんだ

もしもふたりして透明な涙を流せたら
それが再出発のサインだ
私たちきっと一緒に歩いて行ける

今はとにかく一緒にいよう
いずれ水平線に沈む太陽を見に
湘南あたりまでドライブしよう
そんなありきたりな約束しよう
叶いますように
叶いますように

そんなありきたりに「ありがとう」を
言える日がきますように
祈り方も知らずに祈るんだ
きみは相変わらずのんびりとハンドルを握る
私は助手席でスマホで外の景色を撮る
そんなつまらないドライブしよう

空を飛べなくたって
風は感じられるさ
それ以上になにも望まない
無力で無欲なきみが好きだ

銀色の蝶のるるらと舞う皐月の空
間違いなどどこにもなくて
正しさと正しさが争っている日々
あらゆる雑音から耳を塞いで
微笑む強さはきみのもの
風はそういうところに吹く
だからとなりにいたいんだ

すべての言の葉から
体温が失われていくのをきみは
コンビニで買ったコーヒー片手に憂う
きっと意味だけが残った言の葉は
分厚い辞書の中で永眠するだろう

だから私はこれ以上
むつかしい言葉など覚えずに
アルバトロスになりきって
きみの心に巣をつくるんだ

すべての涙が
星空に還るために流れればいいな
すべての空白が
埋められるために存在してるように
すべての孤独が
愛を識るために穿たれていればいいな

こんな欲張りな私の願いごとが
すべてすべてすべて叶いますように
叶いますように