最終群 一 緒
「まさか―――?」 黒蝶はやがて、一か所に集中し始めた。黒々しい塊になったかと思えば、あっけにとられる真水と浩之の目の前で、一糸纏わぬ姿の麻衣子が現れた。 奇跡の人為的発生。愚かなる矛盾。 「樋野さん……!」 「センセ。…
「まさか―――?」 黒蝶はやがて、一か所に集中し始めた。黒々しい塊になったかと思えば、あっけにとられる真水と浩之の目の前で、一糸纏わぬ姿の麻衣子が現れた。 奇跡の人為的発生。愚かなる矛盾。 「樋野さん……!」 「センセ。…
工藤征二の葬儀は、しめやかというよりは、あっけなく執り行われた。 弔問客も少なく、既に父親を亡くしていた征二の周囲は、彼を悼むどころか、その死を知ることすらなかったようだ。 小雨の降る教会で、黒いワンピースに身を包んだ羊…
羊子は片方の手で麻衣子の手をぎゅっと握りしめたまま、後方を睨んでいる。 「羊子さん……」 「大丈夫よ」 「誰か、いるの?」 麻衣子は非常に素直だ。だから、羊子の視線の先を辿って、程なくして、『彼』――浩之と目が合った。 …
『運命』なんて言葉は便利すぎて吐き気がする。羊子は心からそう思っている。 誰が何を企もうと、誰が何処で笑おうと、それを『運命』だからしょうがないのだと片付けようとする安易さに立ち向かって生きてきた。だから、 「私ね、とん…
年に一度、紅白歌合戦だけは、消灯時間を過ぎてもテレビの視聴が許可されている。それは、普段の「消灯夜9時」の意味の無さを裏づけているが、それを追求する者はいない。 時計の針が午前0時を指すと、デイルームにいた患者たちからは…
師走に入り、街は一気に賑やかになった。街を彩るイルミネーション、華やかなクリスマスソング。しかし、すべてが麻衣子にとっては疎ましかった。 いや、自分には縁がないと思っている。病棟でもクリスマスパーティらしいものをするが、…
診断不能、なのだそうだ。現代の医学では奇跡は解き明かせないということだろうか。 樋野麻衣子は、指先から徐々に体が黒蝶に変化する病に冒されている。病名はまだない。極めて希有も稀有、それもそうだろう。 「ありえない」というの…