第二十五話 刹那の灯(四)虹
太陽が傾いてきたころになって、美奈子はようやく意識を取り戻した。 「気分はどうだい」 清潔な布で美奈子のひたいに浮かんだ汗をぬぐいながら、木内は問いかけた。 「……はい、大丈夫です」 小さく、しかしはっきりとした口調で美…
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太陽が傾いてきたころになって、美奈子はようやく意識を取り戻した。 「気分はどうだい」 清潔な布で美奈子のひたいに浮かんだ汗をぬぐいながら、木内は問いかけた。 「……はい、大丈夫です」 小さく、しかしはっきりとした口調で美…
美奈子は異変に気付くと、すぐにベッドから身を起こした。身の危険を察知すると、「誰っ!」と声をあげたのだが、すぐに美奈子は絶句した。 美奈子にとって見たことのない男が、フォークを片手にこちらを凝視しているのだ。 「馬鹿にし…
復讐というものもまた、何も救われないという意味で、誰からも忘れ去られた古いフィルムのようである。カタカタと音を立ててからまわる、寂しさや虚しさを映して、やがてそっと沈黙するのだ。 赤く猛る炎が、優しい時間と白い空間を飲み…
豊穣とは、枯れ朽ちる手前のいっときの喜び。祝福された実りを手にする人々にとって、収穫とは、その喜びを分けあう、かけがえのない作業だ。 幼馴染のフレイは、あどけなさの残る頬に土ぼこりをつけながら、僕の家の果樹園の収穫を手伝…
1 履歴書の特技の欄が埋められずますます自分が好きになった 2 「気車」じゃなく「汽車」なんだって知ってても「×ばつ」を書き足さないといけない 3 殺したいとすら思わず切先を滑らせてほら美味しい刺身 4 舌足らずな伝え方…
1 コンビニでアイスを買ってダッシュしてふたりの夏はそれでも溶けた 2 ケンカしてそっぽを向いた夜なのにJUNKのせいで笑うしかない 3 前髪を切っても気づくきみじゃない目くばせしてもウインクされる 4 自転車のカタログ…
私は浮かんだことがある 心を逃した先に居た 完全な球体と一緒に 美化されがちな夏アルバムの 読み飛ばされる一ページに 名前を与えられることもなく 極彩色のクレヨンで塗り潰された ちゃちな汚れ 神さまのこと 打ち上げ花火の…
1 考えてしまうここまで生きるためお前わたしは何を見殺しにした 2 気にしない人の噂もゴシップも落ちゆく砂が止められたなら 3 来年も旅行をしようそのために貯金をしなきゃまずは点滴 4 猫は猫スマホを捨てることがもう半身…
1 缶ビールひとつ分けあう連休にはだしになって夏待ち伏せる 2 カレンダーめくり忘れてループして四月に封じこまれたふたり 3 ピリオドを消し去りたくて加速する空も泣いてる夜のドライブ 4 昼寝するとなりで雨を眺めてる す…
1 はつなつの夜の休符よあとがきを恋文みたく指でなぞって 2 月のない夜になるから寂しさをコーンスープに溶いて分けあう 3 走り梅雨 いつか別れがくるなんてとっくにしってるよだいじょうぶ 4 ワイシャツがはためく午後にラ…