第七章 正しい紅茶の淹れ方

春の初めの暖かい風が、彼の頬を掠める。彼の足もとには、芽吹き始めた新しい命たち。朝露を受けてしなやかに伸びる、その葉々を邪魔するように一つ、影が転がっている。朝日を浴びたそれは、先刻、ただの肉塊と化した。
逆光を浴びて薄ら笑う彼は、しゃがんで足もとの土の感触を味わった。

――いつか還る場所、か。

彼はこみ上げる感情を堪え、スーツのポケットから携帯電話を取り出した。慣れた手つきでボタンを押す。その電話はすぐに繋がった。
「もしもし、Dr?」
早朝の、ひと気のない公園の隅。彼は世界への憎悪と、相手への敬意を込めてこう言った。
「あなたの宣託は、俺を苦しめるだけだ」

宣託? これはそんな大それたものではありませんよ。
自分を許せないのが他ならぬ自分なら、自分を寛恕せしめるのも、また自分だけではありませんか?
僕は、とうの昔に決め、選択しましたがね。――自分を、解放することを。