第六話 江古田
二人はしばし茫然としていたが、桃香が突然、 「ジェラート、溶けちゃう!」 と言って真一にカボチャ味とバニラ味を半ば押し付けるように渡した。 「私は洋ナシとチョコを担当します」 「え、え?」 「早く!」 二人は近くにあった…
-->
二人はしばし茫然としていたが、桃香が突然、 「ジェラート、溶けちゃう!」 と言って真一にカボチャ味とバニラ味を半ば押し付けるように渡した。 「私は洋ナシとチョコを担当します」 「え、え?」 「早く!」 二人は近くにあった…
桃香は人混みを堪えながら、懸命に真一を探した。本来なら都会の混雑は桃香にはしんどいはずだが、幸い『豊島ふれあい福祉祭』はそれほどひどい混み具合でなかったために、絵美子も大丈夫と踏んだのだろう。 喫煙所に行ってみたが、それ…
「こんにちはー! 『ピアサポートセンター・ふるーる』でーす! 手作りのストラップ、キーホルダー、カードケース、いかがですか~?」 ブースに絵美子の朗らかな声が響く。さすがは販売のプロだ。「ふるーる」のパンフレットを一読し…
絵美子が怪訝そうに桃香を見る。身動きしないと思いきや、桃香は突然その場から速足で離れだした。 「ちょっと、桃香!」 桃香は跳ね上がる鼓動をどうにかしたくて、しかしどうしようもなくて、ひたすらあの場から逃れることを考えてい…
思い立ったが吉日。絵美子にはあきれられてしまいそうだ。しかし桃香の足は迷うことなく本屋へ向かっていた。本棚を探しても、中原中也は見当たらない。流行りのコミックのコーナーは広いのに、詩歌のコーナーなんてオマケ程度にしかなく…
それから数日後、コトノハの店内最奥のテーブルにホームセンターで買ってきたベッド用の天蓋が設置された。ここで魔女・ヨーコがオーストリアをはじめとする欧州諸国から買い付けたグッズを売ることが決まってからというもの、美咲はもち…
香月は驚きの表情を全く隠すことなく、透の隣にすとんと腰を下ろした。 「ねえ、覚えてないかな? 私、第八中学校で一緒だったミヤマカツキ」 透は突然そう言われて、ぎこちなく「はい?」と返すのが精いっぱいだった。香月は構わずに…
数日前のことだ。定期的に自宅に訪問する若手のソーシャルワーカーが、透の提出した『日課のチェックリスト』中の11月27日(火)と11月30日(金)の欄に「コトノハ」という走り書きを見つけたので「これはなんですか?」と質問を…
コトノハのある街は外国人観光客も多く滞在する。都心へのアクセスが良好な上にホテル代が比較的安価だからだ。コトノハにも時折やってくることもあるが、これまではメニューの指さしか単語の羅列、ボディーランゲージでどうにか応対して…
もともと得意だった英語や現代文はもちろんのこと、ずっと不得意だった数学に「83」、物理に「79」、化学に「86」という高得点を朋子が獲ったことに、透は驚きを隠せなかった。 透が伝えたのは勉強そのものというより、勉強に楽し…