第七章 正しい紅茶の淹れ方

春の夜には、どこか妖艶な色が付いているように彼には思えた。『その場所』へ赴く一歩一歩が、自分の中の衝動を焚きつけているように感じられる。彼は池袋駅のホームで、柱に寄りかかりながら腕組みをした。腕を組むのは、隠すためである――凶行に走る、その呪われた手を誰にも見られないようにするため。
彼はうっすら目を開けた。纏わりつくような温かい空気を鼻で吸う。少しだけムッとするような花や草木の匂いが肺に溜まると、彼は長く息を吐いた。
絶え間なく流れゆく人々を眺めながら、彼は眼光鋭く探していた――『還るべき者』を。

主演女優は、自らの手で緞帳を上げてしまった。音響も照明もない、鉛色の次ページをめくってしまったのだ。
――そして舞台は、再び。

第八章 その面影